お仏壇や仏具が原因で火事になることも。
火を扱うこそ火事対策を。注意すべき点や仏具の選び方

  • 2018.11.01
  • 2020.04.06

仏壇 仏具

お仏壇において仏具を用いる際、欠かせない要素に「火」があります。
火は空間や人の心を明るく照らしてくれる反面、お仏壇の多くは材料に木材を使っていることから、使い方を誤れば大きな火事に発展する可能性もあります。

特に冬場など乾燥しやすい時期などはニュースなどでもお仏壇が原因の火事のニュースが時折報道されています。
今回は、お仏壇における火事対策について注意すべきところや対策をまとめています。

そもそも、なぜお仏壇において「火」は大事なのか

毎日のお勤めにおいて、お仏壇で火を使う場面は多いと思います。
拝火教のような宗教が生まれたように、古来より人間は火に対して神性を感じていました。

日本でも火をあがめる祭りは多く、火を神社に奉納したり、燃え上がる炎に祈りを捧げる神事が全国的に見られます。
お仏壇、すなわち仏教世界においても、火は重要な意味を持っています。

火によって明らかになるもの

電気が普及していなかった時代は、火は明かりとして重要な意味を持っていました。
暗闇を照らし、夜の闇に怯えずに済むようになってから、人々の生活はより快適になっていきます。

しかし、火の持つメリットはそれだけではありませんでした。
キャンプなどで火を焚くと、薪の燃える音に安心感を覚える人も少なくありません。

火は、その周りを照らすのみならず、冷えた身体を温め、音で動物を追い払ってくれます。
現代では、火が持つ精神安定効果を狙った「キャンドルセラピー」なども人気を集めています。

仏教世界でも火の持つ効果は重要視され、文明を生み出した知恵のあかしとして、闇を照らし浄土へと導く光とされてきました。
火を見つめることで自らの煩悩を浮き彫りにし、同時に浄土へと向かう心を作る役割があるものとして、仏教においても重要視されてきたのです。

「油断」という言葉に込められた意味

比叡山の「不滅の法灯(ほうとう)」は、ご存知の方も多いと思います。
天台宗の開祖である最澄(さいちょう)の時代から、千年以上も灯りを絶やしていないことから、このように呼ばれています。

最澄は、比叡山にお堂を建立したのち、自ら薬師如来のご本尊を彫り、灯りをつけました。
その際に「明らけく、後の仏の御世までも、光伝えよ法の灯しび」と弟子に伝えたとされています。

それ以来、僧侶たちの心がけによって、油を絶やすことなく今日にまで至っています。
『灯火の油を絶やすな!=油断するな!』

日本では、油断という言葉は「不注意・気をゆるす」などの意味合いで用いられますが、本質的には「大切なものを失わないように気を緩めない」ことを指しているのかもしれません。

「貧者の一灯」の真意

法話や絵本などで聞いたことがあるかもしれませんが、仏教には貧者の一灯というエピソードがあります。
概要としては以下のとおりです。

お釈迦様が霊鷲山(りょうじゅせん)にて説法をされているとき、時のマガダ国阿闍世王はそれを聞き、お釈迦様のためにたくさんの飲食・万灯を献じて供養しました。

このとき、マガダ国の城下町には、ある貧しい老婆が住んでいたのですが、彼女もお釈迦様に対して何か供養をしたいと思いました。
しかし、彼女にはお金がなく、供養するものが何もありません。

そこで、通行人から油を買えるだけの少しの銭を恵んでもらい、油を買って心ばかりの一灯を捧げました。
阿闍世王の献じた万灯は、風にゆれて消えたり灯ったりの繰り返しでしたが、老婆の一灯はわずかの油で夜通し灯り続けました。

お釈迦様は、彼女の布施に対し、来世のよき未来への生まれ変わりを約束されたそうです。
ここでお釈迦様が重要視したのは、貧しい中でもなんとか自分にできるだけのことをしようという彼女の「心」でした。

つまり、灯明は「彼女の心そのもの」を示していたのです。
このエピソードが示す通り、灯明によって御仏への感謝の心を伝えることが、お仏壇をお祀りする際の習慣として今も息づいているのです。

お仏壇で火を取扱う仏具は意外に多い

上記のように、仏教世界にとって、火は切っても切り離せない存在です。
それゆえ、お仏壇で用いる仏具にも、火を取り扱うものは数多くあります。
以下に、主だったものをご紹介します。

香炉

一般的には、中に香炉灰を敷き詰めて線香を立てる用途で用いられるものを指します。
日々のお勤めでは、このようなスタイルのものを用いることが多いでしょう。

浄土真宗では線香を寝せることもありますが、そのほかの宗派では主に線香を立てて用います。
線香のため、火はごくわずかなものですが、万一火のついた線香がお部屋で倒れたままになっていたら、やがて大きな火となって燃え広がる可能性があります。

特に気をつけるべき点は、線香の灰は飛びやすいところです。
風などに当たると飛んでしまいますし、それが可燃性のもののところに不着すると、燃えてしまうといった危険性がゼロではありません。

線香を立てる際は灰にしっかりと差し込み、倒れないように気を付けましょう。

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火立

文字通りの意味合いを持つ仏具で、ろうそくを立てて火を灯すことを目的としています。
火事防止の面で気を付けたいのは、やはり火のついたろうそくの取り扱いです。

仏教において、線香の火やろうそくの火は、原則として吹き消すことを禁じられています。
これは、人間の口から出る息は不浄なものであり、穢れているという前提があるからです。

よって、手であおいだり火消しを使ったりして火を消す場合が大半だと思われます。
しかし、ろうそくの火を消す場合は、注意して作業しなければなりません。

火立に手が触れてバランスを崩してしまい、他の仏具などに火が移る可能性もあるからです。
火の回りに燃えやすいものを置かないよう心がけるだけでも、火事のリスクを減らすことができます。

また、少しの時間だからといって火立のロウソクに火をつけたまま買物に行ったりする方も少なからずいらっしゃいます。
トイレ程度であればまだしも、一定時間席を離れたり見なくなる場合は、注意しましょう。

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その他の仏具

近年では、供養の形もさまざまとなっており、遺族の好物や美しい花などをかたどったキャンドルが人気を集めています。
また、お盆などのイベントで使う提灯や、お仏壇の天井に吊るす仏具にも、火を使う種類のものが見られます。
これらの仏具で火を扱う場合も注意が必要です。

灯籠・輪灯

現代では多くが電灯型となってきている灯籠ですが、かつてはやはり火を使って明かりを灯していました。
こちらは、基本的にそれほど心配することはありませんが、コンセントの火花・ショートなどを防ぐ意味でも、接触部分やケーブルに痛みがないかどうかはチェックしておく必要があるでしょう。

また、浄土真宗で輪灯をお仏壇に飾る場合、現代において輪灯は基本的に火をつけずに飾ることから、火事の心配をする必要はありません。

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提灯

お盆に使う盆提灯などが代表的です。
近年では、実際に火を入れるタイプのものは少なくなってきていますが、新盆に一度きりで使う白提灯などであれば、火を入れて使っている家も見られるようです。

ただ、現代で気を付けるべきは、盆送りなどで提灯を燃やす際の火の取り扱いと言えるでしょう。

外で火を焚くことから油断しがちですが、きちんと火の管理をしていないと、気付かずに庭先などに飛び火するリスクはゼロとは言えません。
火の勢いに注意して静かに燃やし、火が消えたことを確認してから片づけましょう。

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キャンドル

形状は数多く存在し、その多くは容器に入れて火をつけます。
ガラスでできた容器なども人気があり、見た目にも美しく、浄土のきらびやかさを連想させるものもあります。

こちらも直接火を扱うことから、着火・消火時はもちろん、点灯している間は目を離さない心配りが必要です。
製品によっては火の勢いが強めのものもあることから、念のため、消火用の水などを用意しておくと安心です。

火事の原因となりやすいお仏壇

お仏壇は、基本的に木材を使って組み立てられます。
ろうそく・線香の取り扱い中に、万一火が移ってしまった場合、非常に危険です。

事実、お仏壇における火の不始末は、火災の原因としては少なからず取り上げられています。
以下に、詳細を紐解いていきましょう。

ろうそく・線香が原因の火災は多い

東京消防庁の調査によると、2017年までの5年間に同庁管内で182件の火災が発生しており、2人が死亡、83人が負傷したというデータが出ています。
2018年3月14日時点では14件の火災が発生しており、うち11件が建物内で起こった火災とのことです。

お仏壇を持たないご家庭も増えてきていることから、自宅から出火したと聞くと、ガスコンロやストーブを思い浮かべる方は多いと思います。
しかし、ある世田谷区のご家庭では、70歳代と40歳代の男性がお仏壇前の経机に線香を備えたあとで外出し、何らかの原因により線香が座布団上に落下したあと、そのことに気づかないまま座布団が焼損したという事例があります。

共同住宅に一人で暮らしていた高齢者の方で、お仏壇のろうそくに火をつけ、そのままにしていて灯明が転倒したことから、火事になってしまった例もありました。
居住者が認知症だったことから、避難が遅れ負傷してしまったそうです。

特に高齢者の方の場合、今までそうしてきたからという事で、疑う事なく火をつけそのままにしているという事例は多々あります。
他にも、最近ではペットを飼っている家庭も多くなり、ネコが仏壇にイタズラをしてその際にロウソクが倒れたといった事例もあります。

灯明の転倒だけでなく、キャンドル容器破損などの理由も

先の例を見る限り、年齢を一因と考えることもできます。
しかし、年齢に限らず油断が命取りとなることもあるのです。

お仏壇の例からは少し離れますが、アロマキャンドルを楽しんでいた方が火災を起こした例もあります。
ガラス製の容器でアロマキャンドルを灯し、居住者が席を外していた際に、ガラス製容器が熱膨張により破損し、カーペットに落下し出火してしまった例があります。

火災報知器が作動したことにより居住者が気付き、お風呂の水をかけて消火しました。
気になる理由ですが、普段使用しているアロマキャンドルよりも、キャンドルのサイズが大きかったことが原因とのことです。

ロウの蒸気が多量に発生し、炎が容器内全面に広がったことで、熱膨張から容器が破損してしまったのです。
あらかじめ決まっている規格を無視すると、思わぬところで災害を引き起こす一例と言えるでしょう。

ろうそくの長さにも注意

ご存知のとおり、ろうそくは燃え続けるうちに長さがどんどん短くなっていきます。
この性質が、火災を招くこともあるのです。

ご家庭によっては、お供え物をお仏壇にあげる際などに、半紙をお供え物の下に敷くところもあります。
殊勝な心がけですが、このような心配りが火災に発展する危険性もあります。

火を灯したままろうそくから離れ、消すのを失念すると、ろうそくの長さはどんどん短くなっていきます。
すると、いずれ半紙の高さにまで火が下がり着火してしまうことは、簡単に想像できると思います。

しかし、火を付けた時はロウソクが長いため、そこに気付かないという事は多いのです。
ちょっとした時間であっても、火の周辺から離れることは大きな災害を招くおそれがあることを肝に銘じ、お仏壇と向き合うよう心がけましょう。

お仏壇で火を用いる仏具を利用する際の注意点

火の取り扱いに注意するのはもちろんですが、火事を防ぐためには、火を用いる仏具自体の取り扱いにも注意が必要です。
また、万一火のついたろうそく・線香を倒してしまった場合の備えを充実させたり、そもそも火を用いない仏具を使ったりすることで、火災防止につとめることもポピュラーになりつつあります。

以下に、お仏壇で火を取り扱う際の注意点について、仏具の取り扱いと合わせてご紹介します。

水洗いのあとはしっかり乾燥させる

仏具の多くは、水に弱い性質を持つものが多いという特徴があります。
金箔は汗や指先の油に弱く、金メッキは表面を傷つけるとあっという間に錆びてしまいます。

火立は金属製のものが多いことから、磨いた後に乾いた布でよく水分を拭き取り、しっかり乾燥させましょう。

特に、ろうそくを立てる火立は、水分が残っていないかどうかに気を付ける必要があります。
万一、濡れた火立を使ってろうそくを燃やすと、溶けたロウと水分が反応し、火が付いた芯が飛んでしまうおそれがあるのです。

「どうせろうそくに火をつけるから、そのうち水分も蒸発するだろう」という考えから、火立が濡れたままろうそくを使うのは大変危険な行為ですので、絶対に止めましょう。

防火・耐火マットを使う

万一火立のろうそくや香炉の線香が倒れたとしても、落ちた火が燃え広がらず消えてくれれば、火災につながるリスクは低くなります。
そのため、机・膳引・座布団の下などに防火マットを敷いているご家庭も多いです。

机・膳引にマットを敷くことで、仏具を移動する際などに、木製のお仏壇に傷がつくのを防ぐ効果もあります。
特に、真鍮製の仏具を使用している場合、仏具の移動時に木材に傷が付いてしまうといった事はよくあるので、マットを敷く事で一石二鳥の効果を発揮します。

大きさ・デザインもさまざまで、敷くと雰囲気自体もかなり変わることから、インテリアの一環として取り入れられています。
火を扱うという場合は、しっかり対策するように心がけましょう。

そもそも「火」を使わないという方法も

ここまでは、ろうそく・線香などに火を使うことを前提としてきましたが、現代であればそもそも「火」そのものを使わないという選択肢も選べます。
LEDを用いたろうそくや灯籠などが有名です。

最近では火事対策という事や、効率化、費用対効果といった面も重視する事もあり、火を使わない仏具も販売されています。

最も使われていて有名なのが、ロウソクやお線香のLED形タイプです。
電池式などで火を使わず、形はそのままにスイッチをONにすると火を灯したようになる仏具があります。

これらの仏具を使う事で、火そのものを使う時は法要などの時で、日々のお参りには火を使わないという家庭も増えてきています。
仏具メーカーもこういった現代タイプの仏具開発に力を入れている事や、災害防止の観点からも、この流れは広がっていくことが予想されます。

おわりに

仏教世界が持つ意味合いを考えると、お仏壇にはやはり明かりがつきものです。
しかし、火を扱う機会が多いことから、お祀りする際には常に火事の危険を想定しておかなければなりませんでした。

昔のように家の中に多くの人が過ごすという時代ではなくなりました。
特に高齢者の家庭では、1人住まいで大きなお仏壇というシチュエーションも珍しくはありません。

そういった環境の場合は、今までの習慣で火を付けてそのまま置いておくという方もまだまだ多くいらっしゃいます。
今は大丈夫でも、風の強い日や掃除で窓を開けた日など、毎日同じ日はなく、何かしらの拍子に火が仏壇や他に飛び移る可能性はゼロではありません。

過去を教訓に現代の仏具は進化し、火を燃え広げない工夫に加え、そもそも火を発生させない照明を実現するにまで至りました。
火を使わずとも、お仏壇に明かりを灯せるようになったことは、ご先祖様もさぞ驚いているかもしれません。

しかし、人の心に残るともしびは、やはり火の温かさだと思います。
ろうそくを使っているご家庭が少なくないのは、そのような記憶が遺伝子に残っているからかもしれません。

お仏壇でろうそくを使いたい場合でも、こまめに火の始末をすれば、火事になることはまずありません。
火の取り扱いに注意するのはもちろん、万一の備えを怠らないようにして、末永くお仏壇をお守りしましょう。

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  • 公開日:2018.11.01
  • 更新日:2020.04.06

カテゴリ:仏壇, 仏具

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